就労継続支援B型は売れるのか?売却(M&A)時のポイントを整理しました

近年、障害者福祉施設の新設、廃業が相次いでおり、参入はしやすいものの、安定的に経営を継続していくことは簡単ではないことが明白になっています。どうすれば収益を上げながら、安定的に経営していけるのでしょうか。ここでは、就労継続支援B型の経営を成功させるためのポイントについて解説していきます。

就労継続支援B型の利用者の安定

就労継続支援B型の経営成功の基盤となるのは、なんといっても、一定数の利用者に安定して通所してもらうことです。そのためには、どんなことをすればよいのか説明します。

利用者を獲得するノウハウ

まず、しなければならないことは、利用者を獲得です。そのためには、第一に、事業所の存在を知ってもらうための情報提供が必要です。重要なツールとしては、ウェブサイト、チラシやパンフレットが挙げられます。利用者、あるいはその家族が自ら就労継続支援B型事業所を探そうとするときにまずアクセスするのは、ウェブサイトです。事業所の雰囲気と、売りポイントがわかりやすく伝わる見せ方を工夫しましょう。チラシやパンフレットは、利用者本人、相談支援事業所、特別支援学校、病院などから問い合わせがあったときに、まず郵送する物となりますから、常に情報を更新しつつ、常備しておきましょう。また、こちらから関係機関に出向いて営業活動を行うときにも、活用するものでもあります。
利用者の心をとらえるためには、事業所の売りをはっきりと伝えることが効果的です。昼食がおいしい、楽しいレクリエーション活動の時間があるなど、利用したくなるポイントを示しましょう。特に、力を持つのが、「工賃が高い」ということでしょう。就労するからには稼げるところがいい、ということは、多くの利用者が考えることです。また、支援者が「この施設に障害者を託したい」と思えるような事業所であることも必要です。各関係機関に信用してもらえる事業所であれば、向こうから、利用者の紹介をされる機会も増えてきます。

利用者が定着するためのポイント

利用者に継続的に通所してもらえなければ、経営は安定しません。利用者が定着するためのポイントとはどんなことなのでしょうか。まずは、通所を開始した時期における、利用者との接し方に気をつけなければなりません。その人の障害特性によって、どんなことが苦手なのか、つらく感じるのはどんな場面なのか、ということを、事業所スタッフは早急に把握しなければなりません。できれば体験利用の期間に、その利用者への接し方を把握しておきたいところです。多くの利用者は、他人とのコミュニケーションになんらかの課題を抱えています。しかも、様々な障害を持った人たちが事業所には集まっているのですから、新しい利用者に配慮ができる人ばかりではありません。大声を出して騒がしくされたり、注意を受けたりすることによって、せっかく始めた通所が継続できなくなってしまうケースもあります。そうならないために、スタッフの配慮が必要となってきます。 

利用者の通所率を向上させるために

利用者が定着したとしても、休みがちとなり、通所率が低くなってしまっては、経営は安定しません。通所率を向上させるためには、積極的に利用者と関わっていかなければなりません。第一に、事業所が自分の「職場」であり、「居場所」でもあると利用者に認識してもらうことが必要です。「職場」であるためには、自分の仕事があり、必要とされていると思ってもらわなければなりません。また、「居場所」であるためには、家庭のように、安心していつでも帰ってこられる場所という雰囲気が必須です。信頼できる仲間やスタッフがいて、おいしい食事があり、くつろげるスペースがあり、楽しい時間があるところです。また、事業所内の清掃や環境整備などの役割を担ってもらうことも、ホームとして位置づけてもらうことに寄与するでしょう。

就労継続支援B型の収益事業の展開

一定数の利用者に安定して通所してもらうという経営基盤の上に構築すべきなのは、収益事業の展開です。どうしたら収益を上げていけるのか説明します。

収益事業業種を選定する方法

まずは、収益事業業種の選定に取り組まなければなりません。かつては、単価の安い内職作業を下請けするというスタイルが、就労継続支援B型の主流でしたが、それでは、なかなか収益事業を展開していけないというのが現実です。とはいえ、儲かる事業を行えばよいかといえば、必ずしもそうではありません。利用者ができる作業と、うまくマッチングしなければ、事業を続けていけないからです。考えなければならないポイントは、通所している利用者の障害特性を活用することです。障害特性は、発想一つで、事業の足を引っ張るものから、事業を羽ばたかせるものへと転換していける可能性を秘めています。地道な作業をコツコツと飽きずに続けられる人、一度覚えたことは手間を省かずにやり遂げることができる人、以前に就業していた業種のことなら今でも得意な人、笑顔を絶やさず働ける人など、利用者個人個人に様々な個性があります。特性に応じて、スタッフが役割分担をうまく割り振ることができれば、収益事業は発展していきます。この軸に沿って事業選定をしつつ、提供する商品に、いかに付加価値をつけるかということを考えます。設備投資をすることができれば、さらに事業の発展性を高めることができるでしょう。

営業活動の必要性と具体策

収益事業が選定できたら、次に、必要となってくるのは、営業活動です。もちろん、事業所は福祉サービスを提供する施設なのですが、収益事業を行うビジネスを行なっているという視点を忘れてはいけません。仕事の獲得のために、積極的に営業活動を行なっていきましょう。具体的には、ウェブサイトにおいて、得意作業分野、仕事量に要する時間の提示、作業の実績などの情報を発信します。それとともに、利用者・支援者向けではなく、仕事の発注者向けのチラシやパンフレットを作成し、営業活動に出向きます。ただし、飛び込み営業をしても効率が悪いので、何らかのつてがあるところ、障害者福祉に理解のあるところへ行きます。また、障害者への業務委託(アウトソーシング)を取りまとめている団体が地域にある場合もありますから、そのようなところと連携を強化していくのも重要です。

障害者の平均工賃額を向上させるポイント

事業収入から経費を控除した額が、利用者に支払う工賃となります。前年度の平均工賃額によって、就労継続支援B型の基本報酬が決定されるので、平均工賃額を向上させなければなりません。具体的には、事業収入を上げることと、経費を少なくすることになるわけです。そのためには、作業単価のアップ、作業の効率化はもちろんのこと、利用者の通所率の向上が必要です。特に、通所率の向上がポイントです。休みがちだったりすると、工賃は下がっていきますので、利用者のモチベーション作り、事業所を居場所と認識してもらうための工夫が重要です。

収益を増やすためにできること

収益事業の展開の他に、事業所の収益を増やすためにできることは、各種の加算を積み上げていくことです。

施設外就労への取り組み

収益事業の展開の中に、施設外就労を位置づけることができれば、施設外就労加算をつけることができます。また、多様な就労機会を利用者に提供して、経験を積んでもらうという意味においても、施設外就労は重要です。ただし、2021年春に、施設外就労加算をめぐる制度変更が予定されており、今後、この加算がどうなるのかは不透明です。しかし、もし加算がなくなったり減らされたとしても、施設外で事業展開して就労機会を作ることに消極的になることはありません。あくまでも事業展開を中心に考えていくべきです。

就労継続支援B型の加算の取り方

その他にも、就労継続支援B型の加算には様々なものがあります。食事提供加算、欠席時対応加算、目標工賃達成指導員配置加算、送迎加算など、可能な限り加算を積み上げていきましょう。特に、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、様々な生活への規制が余儀なくされています。その状況に対応して、公共交通機関を利用しなくても利用者が通所できるように、送迎を行い、送迎加算をつけるなどの動きも出てきています。常に、状況に応じた加算を申請できるよう準備をしておきましょう。

ソーシャルビジネスとしての就労継続支援B型

事業所の経営成功のためのポイントを説明してきましたが、根本的には、就労継続支援B型の本来あるべき姿に近づけることが、一番の経営安定対策となります。

社会問題解決というビジョン

就労継続支援B型の本質は、ソーシャルビジネスです。もちろん、公的な金銭的支援を受けて成り立つ福祉事業ではありますが、社会問題解決を目的とした事業なのです。つまり、経営者が、ノーマライゼーションなどの、障害者をめぐる社会問題解決を目指す、というビジョンを持っていなければならないのです。

ソーシャルビジネスに取り組むための人材育成

社会問題解決というビジョンを持った上で、次に考えなければならないのは、そのための人材育成をするということです。日々の事業の運営、収益の向上ができればよいとするのではなく、社会問題解決に貢献できる人材を、育成していく必要があるのです。そのためには、事業所のビジョンをスタッフへ伝え、研修への参加も促し、育成のための中長期的投資を惜しまない経営姿勢を持たなければなりません。

経営成功のポイントは信頼される施設作り

ソーシャルビジネスとしての就労継続支援B型であるということは、突き詰めていくと、信頼される施設作りということになります。利用者本人、その家族、各支援者や関係機関に信頼される事業所であることです。「あの施設ならこの人を託しても大丈夫。きっとよい方向に導いてくれるはず」と思われたなら、自ずと、利用者も優秀なスタッフも集まってきて、事業も展開できるようになり、経営の好循環が生まれるでしょう。

まとめ

就労継続支援B型の経営を成功させるためのポイントは、利用者の安定(獲得・定着・通所率向上)、収益事業の展開(業種選定・営業活動平均工賃額向上)、各種加算の積み上げ、ソーシャルビジネスとしての就労継続支援B型であること、です。遠回りのようですが、やはり、信頼される施設作りが最大の経営成功への道となるでしょう。