苦労して育て上げたバル業態を手放す場合の選択肢は、飲食不況のこの時代においては廃業しかないのでしょうか。
飲食業界におけるバルのブームは成熟期を迎えています。差別化に失敗した店舗が姿を消し行く様を、幾度となくご覧になったことでしょう。
飲食店の経営は苦難の連続です。そろそろ店舗経営に神経をすり減らし続ける人生にピリオドを打ち、第2の人生を歩みたい。そうであればなおさら、廃業はあまりにもったいないことです。売却を検討してはいかがでしょうか。
しかし飲食業界は今なお出口の見えない霧の中。売却を希望したところで買い手は現れるのだろうか、という不安が残るのではないでしょうか。飲食業界全体のネガティブな状況を考慮に入れてなお、バル業態には大いなる可能性があり、それ故に需要もあると言えます。今回はバルを廃業ではなく事業売却すべき理由、そして売却を優位に進めるにあたって押さえておきたい「バルの事業売却で損しないための3つのポイント」を紹介します。
バルの強みと可能性
昨今の社会情勢を受け、飲食業界にも新たな兆しが訪れています。コロナショックが収束した後も、大きく変容を遂げた消費構造が元に戻るとは到底考えられません。将来を見据えた変革が今こそ求められているからです。すでに大手外食チェーン各社は動き始めており、不採算を続々と閉店しています。その一方で、食事メニューを中心とする食堂への業態変更を着々と進めているのです。ふらっと立ち寄って気軽に食事を楽しめる。食堂の一面を持つバル業態は、今まさにブーム再燃の兆しです。バル業態の強みと弱みから見えるバル業態の今後の展望を考えてみます。
バルの強み
初期投資が少額で済む
飲食店を出店で失敗しないためには、初期投資額を最小限に抑え可能な限り早く投資額を回収することが重要です。
その点、バルは初期投資を少額に抑えて出店することが可能です。例えば、狭い敷地面積や大通りから外れた立地、といった飲食店を営業するには不利な条件。これらがバルであれば「アットホームな雰囲気」や「隠れ家」といった競合他社との差別化を図る上でのメリットです。またバルの場合は費用をかけてプロの技術者が作る内装よりむしろ、完璧ではない手作りの素朴さこそが映え、独自性を高めます。内装にかけるコストを抑えて運転資金に充当できれば、初期費用の回収をスムーズに進めることも叶うでしょう。小規模店や立地のよくない場所であれば、契約時に物件取得にかかる費用とともに月々の賃料も抑えることができます。少ない費用で開業できるのはバル業態の最大の強みと言えるでしょう。
少人数で営業できる
少子化のあおりを受け、飲食業界は人手不足も深刻です。厚生労働省が発表した2019年1月の飲食関連職業の有効求人倍率は3.5~4.0倍(厚生労働省データ)といわれてきました。コロナの影響により、低減してきているとはいえ、人手不足は継続しています。
一方で、バル業態は店舗規模が小さく、少人数で営業できます。また、バルという業態は若年層への訴求力が高く、求人を出すと集まりやすいのです。人材を採用しやすいのが特徴です。
食材のロスを抑えられる
コンセプトに基づきメニュー内容をを絞り込んだバルでは、発注する食材の数を絞り込めます。店舗規模も小さいため仕込みの手間も少なく、食材のロスを抑えやすいのが特徴です。原価率を抑えることは、飲食店経営において必須事項です。
また社会の動きとして、2020年10月には食品ロスの削減の推進に関する法律(略称、食品ロス削減推進法)が施行されました。これに伴い、フードロスに対する規制はより一層強化されることが予想されます。
店のコンセプトに合わせて使用する食材を絞り込み、来客状況によって仕込みの量を調整しやすいバル業態は、理想的な業態と言えます。
全時間帯で営業可能
バルは一人でも複数人でも、気が向いたタイミングに立ち寄りやすい点が魅力の業態です。さまざまな顧客のニーズに対応しやすく、時間帯ごとに提供するメニューを変更すれば全ての時間帯において強い販促力を持ちます。従業員をシフト制にして営業すれば、モーニングから深夜帯までの通し営業も可能です。
モーニング帯のカフェ需要、ランチ帯の食堂需要、ディナー帯のダイニング需要、そして深夜帯のバー需要。これら全ての需要に臨機応変に対応できるのは、バルという業態の強みです。
アルコールで客単価が上がり、原価率は下がる
客席数の少ない小規模店舗において、客単価は非常に需要な要素です。特に密を避けて座席を配置しなければならない状況下では、客単価が下がれば大幅に売上を落とします。
特にアルコールは単価が高く、売上につながりやすく、客単価を上げるにはもってこいのメニューといえます。また原価率が低い点も、アルコールメニューの強みです。
バルの食事メニューの中心は大皿料理ではなく前菜などの小皿料理であるため、一皿ごとの価格は低くなる傾向にあります。食事メニューのコストパフォーマンスが高いこともバルの売りです。食事メニューの価格を上げて客単価をあげようと試みれば、顧客が離れていく恐れもあります。
その点アルコールメニューはバルの食事メニューの弱点を補い、客単価を上げながら原価率を下げることが可能です。
また夜間のアルコール提供はもちろんのこと、最近では「昼飲み」や「ちょい飲み」といったアルコール需要は高まる一方です。いつ訪れてもアルコールを提供しているバル業態は、顧客ニーズに合わせやすく、同時に客単価を上げながら原価率を下げることで売上にもつなげやすい業態と言えます。
TakeOut需要を取り込める
店舗規模が小さく一人でも入りやすい店構えのバル業態は、コロナ禍で広まったテイクアウトの需要にも応えやすい形態です。店内飲食とテイクアウトの両方で利用されることでリピーターを増やしながら、売上にも期待できます。
バルの弱み
ここまでバルの強みをみてきました。小規模で営業できること。また、小回りが利くため飲食業初心者でも開業のハードルが低いというバルの強みは、一転すると弱点にもなります。
現在のバル業態は成熟期を迎えています。さらに大手各社も出店しており、競合が多い業態です。際立つコンセプトを打ち出して差別化しないと雑多な中に埋もれ、事業の継続が危ぶまれる事態に陥りかねません。
差別化のポイント
差別化のポイントを以下に挙げます。このようにバルの強みを複数掛け合わせて、自店だからこその独自性で訴求力を高めていくこと。これこそが、バル業態の成功の秘訣と言っても過言ではないでしょう。
高品質×単一商品特化
ここでしか食べられない商品で訴求力を上げる
高品質×低価格
お得感を強く打ち出して訴求する
低価格×全時間帯営業
人数、時間帯、用途を問わず利便性を上げ、さまざまな利用動機の顧客も取り込む
低価格×高コストパフォーマンス
とにかく安く食べられる店として訴求する
高品質×実演性
サービス提供に際しパフォーマンスを付与して、オリジナリティを高める
アフターコロナ時代を見据えたバル業態の可能性
SNS映えで潜在顧客層を取り込む
バル業態は、若年層の顧客からの支持を集めやすい傾向にあります。そのためSNS、なかでもインスタグラムとの相性がよく、トレンドに敏感な若年層の顧客によってクチコミが拡散され易い特徴があります。
総務省の調べによれば、SNS利用者は2012年の41.4%から2016年には71.2%まで上昇しています。特に10~20代の若年層の利用は顕著で、2016年時点で97.7%がSNSを利用していることが調査の結果で分かっています。
バルの個性的でおしゃれな内装や料理は視覚に訴える効果が高く、若年層が重要視するいわゆる「インスタ映え」の格好のターゲットです。SNSを活用すれば、宣伝効果を高めることもできます。
外出自粛で外食しにくくなるほど、抑圧された外食したい欲求は高まります。世界中に情報を発信できるSNSは潜在的な顧客層への訴求力が高く、SNSで映えるバルはまさに時代の波に乗った業態と言えるでしょう。
ハレの日需要に応えられる
外出自粛や密を回避する目的で、歓送迎会や会食、接待といったビジネスシーンでの大幅な減少が、飲食店への来店件数を減少させていることが株式会社テーブルチェックの調べにより明らかになっています。
2020年の飲食店来店数における利用目的を2019年と比較したところ、「社内会食(前年比72.5%)」「接待(前年比70.1%)」「歓送迎会(前年比69.7%)」「忘年会(前年比60.9%)」という結果でした。
その一方で、記念日やデート、家族の会食といった需要は伸びています。
「記念日(前年比116.3%)」「デート(前年比114.2%)」「家族会食(前年比107.9%)」プライベートで飲食店を利用する向きは高まっていることもわかります。
社会の構造は変容しても、外食の需要はなくりません。ただし飲食店が乱立し飽和状態の現在では、特筆した個性を強く打ち出せし他から抜きん出た存在になることが必要です。
バル業態であればコストを抑えて営業できますから、大きな資本がなくて事業できます。また限られた資金やSNSといったツールを活用してコストパフォーマンスの高い商品を拡散すれば、差別化を図ることが可能です。まさに伸び代が多く可能性に満ちた業態と言えるでしょう。
バルの事業譲渡に伴うメリット
バルを事業譲渡することで売却した側が得られる4つのメリットについて、詳しくみていきます。
後継者問題の解決
苦労して育て上げたバル事業。社会的需要もある業態にもかかわらず、廃業するのはあまりに惜しいことです。
中小企業の場合、慣習的に事業譲渡は親族間を中心に行われてきました。しかし広く買い手を募り理想の相手に事業譲渡することで、バル業態は新たな社会的価値を生み出す一歩を踏み出すでしょう。
廃業コストの回避
廃業手続きを執り行うためには諸費用がかかります。主な費用項目としては、会社設備の処分、在庫処分、店舗の原状回復、廃業手続きに伴う税務処理、従業員の解雇に伴う保証です。すでに負債を負っている場合は、廃業しても負債は相殺されません。廃業に伴いむしろ負債が増えます。
しかし事業譲渡であれば売却益を得られるため、負債を精算することも可能です。
資産評価アップ
事業譲渡すれば資産の評価価値が高まります。なぜなら、有形の資産のみならず、店舗の評判やビジネスモデル、店舗運営のノウハウも含めた無形資産も評価対象になるからです。
一方廃業すれば、評価されるのは有形資産のみです。そのため廃業では資産価値が著しく下がる傾向にあります。資産評価の観点で見ても、廃業はデメリットです。
現金を得られる
バルを事業売却すると、まとまった現金が手元に残ります。苦労して育て上げた事業です。第2の人生を豊かに過ごすためにも、現金収入はぜひ受け取りたいものです。
バルを購入する側が得られるメリット
バルを購入する側が得られるメリットを知ることは、交渉を優位に運ぶために重要です。相手が魅力を感じるアピールの方法を理解できるからです。ここでは2つのメリットを紹介します。
低リスクで新規事業展開できる
新規参入や店舗規模拡大のいずれの目的であっても、一から事業を始めようとすれば多大なリスクが付き物です。しかしすでにバルとして成功した事業を買い取れば、ノウハウを確立し顧客を獲得するまでのコストは大幅に軽減されます。
刻一刻変わる社会情勢の中で、スピード感を持って事業をスタートできるメリットは大きいと言えるでしょう。
事業の多角化
大手外食産業が軒並み目指すのが、業態の多角化です。さまざまな業態を持っていることで、流行の移り変わりに伴うリスクを下げられます。
と同時に、顧客側にも変化が訪れています。型にはまったマニュアル通りのサービスではなく、個性的でオリジナリティのあるサービスを求める潮流の高まりです。差別化され個性を打ち出したバルという業態は、既存の体制に新たな風を吹き込むのに最適な事業形態です。
バルを売却する際に重要な3つのポイント
バルの事業売却を進めるにあたって良い条件で交渉を進めるために、あらかじめ用意しておく3つの項目をみていきます。
バル事業売却の理由を明確にする
交渉に入る前に、優先する条件を明確にしておきましょう。売買においては売る側買う側共ともに損を避けたいと考えますから、妥協点が見つからず交渉が難航することも想定しなければなりません。例えば売却金額であれば、どこまで交渉の余地があるのかを具体的に決めておくことが重要です。
バルの事業価値を上げておく
事業売却にあたっては、購入する価値があると買い手に感じてもらうことが大切です。他店との差別化を強化し、メニューを見直し、集客の努力を惜しまず続けます。専門性のあるバルほど、顧客から評価を得やすい傾向にあります。
事業の強みが明確であれば、その部分を求める購入者に訴求することで交渉はスムーズに進みます。また購入するメリットの多い事業だとアピールするために営業努力を継続し、強みを磨き続けることが交渉成功の鍵です。
早めの準備
バル事業の売却には2?3年の期間を見込む必要があります。なぜなら、事業売却は購入希望者とスムーズに譲渡契約まで話が進んだとしても、契約に至るまでに半年から1年の期間を要するためです。すぐに条件の合う購入者が現れるとは限りません。交渉過程で落とし所を見つけられずに交渉決裂することもあります。
また事業売却の準備を進めるのと同時進行で、事業価値を高める取り組みを進める必要も進めなくてはなりません。このように大変長い時間がかかるため、事業売却は一刻も早く準備に取り掛かる必要があります。
さらに、今後の社会の変動に伴いバル業態のブームが終焉を迎えるとも限りません。この機を逃せば、得られたはずの事業売却による利益を逃す恐れもあります。
好機は不意に訪れます。準備不足で貴重な機会を逃せば、次いつ巡ってくるとも知れません。しっかり好機をつかみ取るために、今すぐにでも事業売却の準備を整えることが大切です。
まとめ
手塩にかけて育て上げたバルを事業売却すれば、努力の結晶である店を残したままに、まとまった現金を受け取れます。経営を続け消耗する日々から解放され、第二の人生を選択する自由を得られるでしょう。
バル業態には可能性が広がっており需要も多く、今がまさに事業売却のチャンスです。理想の買い手が現れたタイミングで万全の大勢でいられるように、今すぐ準備を始めてはいかがでしょうか。