人材派遣会社を会社売却(M&A)する時に必ず押さえること!株式譲渡で売却するまでの流れ

今回は人材派遣会社の経営者に向けて、「人材派遣事業を売却する時に必ず押さえること」というテーマでお伝えします。2020年から新型コロナウイルスの影響があり、事業転換を検討している経営者の方も多いのではないでしょうか?
今回の記事を最後までお読み頂ければ、人材派遣会社を売却する時に必ず押さえるべきことがわかり、安心して売却の手続きまで進められるようになるでしょう。

人材派遣会社を売却する前に必ず押さえることは?

まず、人材派遣会社の売却を考える上で必ず必要なのが「買い手目線」です。この「買い手目線」からのメリットを踏まえた上で、必ず押さえる必要があることは主に下記の3点です。

  • どのようなノウハウや経験を持つ人材リストがあるか
  • 主要な取引先企業について
  • 現在の経営上における課題の洗い出し

買い手側は、新しい人材の一括確保により派遣先企業とのマッチング率アップや取引先の拡大によるスケールメリットがあります。さらに、売り手側の経営課題を買い手側で解決できるのであれば、さらなる事業拡大が見込めると考えます。事業の買収による買い手側のメリットをしっかり理解することで、売り手側が売却する際に押さえるべきことがより明確になります。

人材派遣会社経営で大事なこと

人材派遣会社の経営において大事なことは何になるでしょうか。人材派遣会社の売却を検討していく際に重要なポイントとなります。当然経営資源が整っている会社の方が売却価格は高くなりやすく、買い手の手もあがりやすくなるでしょう。また、前述したように自社の強みや経営課題を認識できていれば、その点をポイントにマッチング精度を向上できたり、買収後のトラブルの軽減にもつながります。

法律関連

1986年の労働派遣法施行によって、市場規模は拡大傾向にありました。しかし、リーマンショックでピークとなる約80,000億円となり、その後はいわゆる派遣切り等もあり市場規模は縮小傾向へと変化しました。法律関連もこれらの社会問題を受け厳格な運用や法規制の強化を行い派遣事業者、派遣先の企業双方とも影響を受けました。現在では、同一労働同一賃金の動きもあり、今後も働き方の変革を受け法規制も変化していくことが予想されます。これらの変化に対応することが常に求められます。

派遣先と派遣スタッフが揃って強みとなる

派遣事業者としては、派遣先に対して提案力のある派遣スタッフを保持していることが望まれます。より効率的に経営するために派遣先のニーズを定期的に確認すること、派遣スタッフのスキルアップをスタッフ任せにせず、面談を行いながら適切なトレーニングの機会を提供することも強み形成には有効です。もちろん、人材の見極めも重要になります。

競走環境が激しいからこそ従業員・情報が鍵

派遣事業者数は一時期に比べ減少はしているものの、競争は激しい業界となります。そのため、派遣先や派遣スタッフとコミュニケーションをとり、ニーズの収集や適切なマッチングにつなげる営業社員は重要な役割を担います。優秀な営業社員がいることや営業ツール、顧客・人材の情報管理ができていることは大きな強みとなります。

人材派遣の業界動向

人材派遣業界は非常に景気に左右されやすいと言えるでしょう。好況の時には求人も増え多くの派遣社員が採用されます。しかし一方で、景況が悪化し人件費削減に企業が動けば状況は一転し、多くの派遣社員が契約期間の満了を持って切られてしまうことになります。一時は「派遣切り」という言葉が騒がれ、多くの派遣社員が契約を切られる事態が発生しました。そのようなことからも業界として移り変わりが激しく、柔軟な対応が求められるのが人材派遣業界です。今後は2020年4月に労働者派遣法が改正されたことをきっかけに、同一労働同一賃金の制度も厳格に進められる流れがあります。さらに、ワークライフバランスの充実や多様な働き方を求める労働者も増えることが予想され、引き続き柔軟な対応が求められていくことでしょう。

3つの影響を受ける業界特性

3つの影響を受けて人材派遣業界の市場規模は変化します。1つ目は、派遣先業界の業況感になります。やはり業界が不景気になりコストの削減が検討されると派遣スタッフとの契約終了は避け難いものとなります。2つ目は、法改正となります。法改正が行われる場合、派遣先企業も派遣事業者もより厳格な運営を求められる傾向にあります。働き方改革、同一労働同一賃金等も少なくない影響を企業に与えるでしょう。3つ目は、有効求人倍率等に表れる労働市場の需給関係です。近年では、働き手の減少から企業での人手不足は強くなっています。この傾向は今後もプラスに働いていくでしょう。

変わる働き方で変化する業界

IT化の進展と共に私たちの働く環境は変化してきました。また、働く環境と共に働き手の考え方も変化してきました。長く続いた終身雇用制度の考え方から、ワークライフバランス、複数のキャリアを同時に展開、副業等多様な考え方が生まれています。多様な働き方が新しいニーズとなる中で、派遣先企業も派遣事業者も対応をより早くできた企業が人材の流動性を高めることができると考えられます。

今後は更に競争が激化

業界の今後は、人口減少の問題で労働者が減少し市場規模は縮小するものとみられています。そのため、減少する労働資本を確保する競争が激化すると考えられます。
今後は、働く世代だけではなく高齢者や外国人等の人材が増えていきます。今までとは異なる層の人材となり、うまく派遣先企業とマッチングできるよう派遣先企業の深耕やこれら人材に対するニーズの探索が必要です。働く世代の減少は避けられないため、このような新たに参加する労働者に対応することが求められます。また、働き手としてもパラレルキャリアやライフワークバランス等ニーズは変化し続けます。求められる働く環境は多様化しており、個人個人のニーズに対応できるような派遣先企業の確保、営業体制も必要になります。
また、人材派遣の業界内でも人材が不足しておりM&Aによる統廃合が活発に行われています。今後もこの状況は続くと思われます。

人材派遣会社の売却理由

人材派遣会社を売却する理由は様々です。例えば、後継者が決まっていない場合に承継の手段としてM&Aを行うために売却する、経営の合理化や別事業に集中するために売却をする、経営者として利益の獲得をしたい、自社の経営課題を他社のサポート・強みで補いたい等様々なものがあります。

人材派遣会社のM&A(株式譲渡・事業譲渡)とは

M&Aは第三者承継の位置づけとなり、株式譲渡や事業譲渡により会社や事業を統合していくことになります。株式譲渡は会社の株式を現金対価で買主に譲渡します。会社の経営権を譲渡することになります。事業譲渡は会社の資産の一部を現金対価で譲渡します。会社の資産の一部や全部を譲渡することになります。どちらの方法にもメリット、デメリットがあります。ここは売り主の目的や、買い主の目的で決めていくことになります。どちらの方法でも、その特徴を理解して交渉していくことが大事です。できる限り専門家等を活用して売り主、買い主双方が納得のいく売買を目指したいものです。

買い手側が買収するときの理由

それでは人材派遣会社の買い手としてはどのような目的で買収を行うのでしょうか。いくつか目的が考えられます。

派遣先・人材の獲得

1つは、経営資源となる派遣先や派遣スタッフの獲得です。買い手側は売却先の企業から人材を引き継ぐことになるため、人材の数と質、専門性まで勘案した上で、買収により自社とのシナジーを起こせるかを検討します。そのため、売却する側としては自社の人材に関する強みを整理しておくことが必要です。特に、介護士などその他有資格者がいる場合など、経験やスキルの豊富な人材に自信のある企業であれば、より交渉力を強くすることに繋がるでしょう。更に、買い手企業の派遣スタッフを新たに活用できる派遣先があれば、それもシナジー追求として買い手の目的となるでしょう。

スケールメリットの獲得

2つ目はスケールメリットです。人材派遣会社の買い手側の企業は、買収によりスケールメリットを享受することになります。そのため、買収予定の会社の経営状況が好調であることが重要です。特に、これまでの経営実績と合わせて直近の売上の状況は非常に重要な情報です。また、仮に経営状況が芳しくない場合であっても、課題が明確で買い手側の企業がその課題を解決することができるものであれば、買収に積極的になってくれるでしょう。そのため、経営実績はもちろんのこと、経営上の課題も整理することがおすすめです。

人材派遣会社を売りたいと思ったときにチェックする4つのポイント

人材派遣会社の事業売却におけるチェックポイントについてお伝えします。ここからは売却時の失敗を避けるための注意点となります。これから述べる注意点を押さえていただくことで、買い手側の企業とのトラブルを避けることに繋がります。今から対応できる点でもあるため、しっかりとチェックしてください。

法改正への対応(事業売却まで時間のかかりすぎ)

人材派遣業界は景気の影響を受けやすく法改正も多い業界です。近年の大きなニュースとしては、冒頭でも触れた2020年4月の法改正による派遣労働者への「同一労働同一賃金」に向けた取り組みです。さらに、2021年4月には中小企業の同一労働同一賃金適用も始まっています。このように、人材派遣業界は派遣法改正が順次行われており、そのことで経営が悪化するケースもあります。今後は法改正による規制の厳しさから、業界全体としては再編、淘汰が進んでいくものと考えられます。そのこともあり、事業売却に時間が掛かれば掛かるほど業績が厳しくなり事業売却に不利な状況に陥る可能性もあると言えるでしょう。

未払い保険料や未払い賃金はないか

管理不足により派遣労働者に対する賃金の支払いが正しくできていないケースは非常に危険です。このような未払い賃金が事業売却後に発覚した場合、事業の買い手側の企業が支払い義務を負うことになるため大きなトラブルに発展することが想定されます。派遣社員の長期的な雇用がある企業であればこのようなことは発生しにくいと思いますが、1日だけの派遣労働など短期的な雇用を中心とした事業を営んでいる場合は、このような未払い賃金や保険料の未払いなどが発生している可能性があり注意が必要です。

売り手と買い手の会社文化の統合はできそうか

売り手と買い手の企業文化の相違により、売り手側の企業の人材が離れ、買い手側が想定していたスケールメリットを享受できない場合があります。特に、社員の教育やその方針については相違が生まれやすい部分です。そのため、社員に対して会社の譲渡がポジティブなことであるよう伝える工夫に加え、両企業で互いに歩み寄り企業文化の理解を得られるよう時間を掛けて向き合っていくための機会を設ける必要があるでしょう。

売り手社員のモチベーションについて

今いる会社の事業売却が決まったことに対して、ポジティブに受け止める社員は少ないでしょう。特に、正社員雇用を目指して働いていた社員にとっては、その可能性がなくなってしまう可能性もあるかもしれません。そのことからも、社員のモチベーションが低下し事業に支障をきたす可能性があります。そして、その影響で業績が悪化すれば、買い手側の企業から賠償を求められるなどトラブルに発展する可能性もあり得ます。そのため、事業売却の情報開示はギリギリまで控えること、そもそも社員にとってデメリットが大きい事業売却は避けたいところですね。

売却を検討するときは中小企業診断士へ相談してみる

M&Aを検討する際は、専門家の助言を受けることをおすすめします。M&Aの交渉をスムーズに進めたり、経営者の適切な判断をサポートするのが専門家の役割になります。M&Aでは交渉の段階において様々な契約書が必要であったり、財務、法務、労務、ビジネスの観点で価格を決めたり等、経営をするスキルとはまた別のスキルが求められます。
M&Aをサポートするプレイヤーは様々います。その中で、中小企業診断士は経営に関する様々な見識を持ち合わせた資格を有する士業となります。特に経営・ビジネスに関して経営者の相談に乗り、サポートする士業となり、経営・ビジネスのツボを抑えています。そのような中小企業診断士がM&Aのアドバイザーをすることで資産や決算書だけでなく経営・ビジネスという観点からもM&Aのサポートができます。
売却をすぐにしなくても準備に向けてのご相談も承っておりますのでご相談お待ちしております。もちろん売却時のアドバイザーのご相談もお待ちしております。