医療用機器の卸売業を売却(M&A)するときのポイント

本業界に属する企業は、医療用機器取り扱う卸売企業として、レントゲン装置や吸入器、車椅子等を主として医療機器メーカーと医療機器販売店・医療機関を繋ぐ役割を担っています。
当然のことながら企業によって生い立ちは異なるものの、大きくはメーカーから卸売企業として独立した場合や医療機器の輸出入を扱う商社として全国に展開している場合、地域に根差して、小売店への流通の役割を担っている場合が挙げられます。
今回は医療機器卸業界の業界特性を踏まえた上で、企業売却に向けたポイントを解説致します。

業界を取り巻く外部環境

医療機器卸業界概要

本業界の市場規模は、約5.6兆円(経済コンセンサス引用)ですが、医療業界という特性上、国策の影響を受けやすく、また医療機関のコスト意識向上により、販売単価の下落傾向が見受けられます。
また一般的に、取扱商品の幅が広い企業が散見され、各分野における専門性が求められる傾向にあります。さらに外資系企業による国内進出等、競争環境は激化しており、業界再編が進んでいることが特徴として挙げられます。
上記の状況を踏まえ、医療機関との関係性強化を図る企業も多く、選択と集中により、エリア戦略を取り、地域密着型の有力企業が点在しています。

市場規模の将来予測

前述しました約5.6兆円の市場規模は、20年前と比較すると約2倍近くに成長している。
国内の深刻化する高齢化を追い風に、今後も治療機器や手術支援市場を中心に市場拡大が見込まれます。
しかしながら、他方では国による医療費抑制政策で医療機器の単価が下落傾向にあり、取扱商品によっては、企業間で格差が生じることが予想されます。
業界的な収益構造は、平均営業利益率は1~1.5%で推移しており、他業界に比べると、低収益ではあるものの、推移は安定しています。

競争環境

地域ごとに商圏を展開する企業が点在しており、主要企業となるメディアスホールディングスや八神製作所等は買収や合併を積極的に行うことで、エリア展開を図っています。
一方では、日本ライフライン等のように分野特化型により存在感を強める企業もあります。
しかし、卸業という性質上、取扱商品ラインナップの拡充・取引数量の拡大といった戦略により業績を伸ばすケースが多く、首都圏を成長の中核に位置付けながら、買収・合併により、顧客基盤・エリア基盤を獲得している企業が圧倒的に多くあります。
大手一極化の傾向がある中で、売却先の精査を行うことも重要になります。

買い手が魅力に感じるポイント

顧客基盤の整理

買い手にとって、当然のことながら売却先の顧客基盤は非常に重要なポイントとなります。
また所属するエリアにおける企業としての位置づけもこれに含まれます。
自社の顧客基盤・自エリアでの位置づけにおいて、重要な考え方は、『マーケットシェア』・『インストアシェア』です。
マーケットシェアは、自エリアの市場における、自社が占めるシェアになります。またどの顧客の属性(クリニック・大学病院・介護施設・販売店等)を分析することで、自社の強い顧客属性を把握する必要があります。
続いてインストアシェアですが、こちらは一顧客における自社が占めるシェアです。
例えば、大学病院のように取り扱う医療機器領域が広い場合、どれだけの割合で自社が取引販売しているかを押さえることが重要です。この2つの概念は、営業戦略立案時にも重要な指標であり、改めて自社の状況を把握することをお勧めいたします。

取扱商品の精査

卸業はメーカー機能を持たない為、商品競争力を単独で高めることは不可能です。
それではいかに商品競争力を高めていくのか、それは有力なメーカーとの関係強化で生み出すほかありません。従って現在取引のあるメーカーの精査を行い、自社の商品競争力を把握する必要があります。また利益貢献度(※売上構成比×限界利益により)を算出し、ABC分析を行うことで、商品改廃を断行し、自社の収益構造を見直す必要があります。
高収益な取扱商品ラインナップへ整理することで、買い手にとっての魅力度向上を図ることが可能です。

在籍する社員の営業力強化

商社として、やはり最大の強み及び買い手の関心事となるのは、在籍する社員の営業力となります。押し売り営業やおねだり営業等の営業手法が社内で蔓延している場合には、注意が必要です。顧客の真のニーズを見極め、顧客が求めている商品を提供する営業力または、顧客が潜在的に抱えている課題を見極め、提案を行える営業力への進化が求められます。
以前医療機器卸企業にて、営業力強化支援を実施した際に、その企業の顧客へCSアンケートを実施しました。当初その企業は、わが社が顧客に選ばれている理由は、『営業の小回りの良さ』と定義していましたが、アンケート結果では、『営業マンの提案力』となりました。
今回の事例は、ほんの一例に過ぎませんが、どの業界においても営業マンには、一定の提案力及び課題解決力が求められます。
営業マンの営業力強化は、一朝一夕で行える訳ではありませんが、業界の特性上、専門性が求められるケースが多い為、インプットによる営業力強化を図ることで、ソリューション営業への進化へ短期的な効果を生み出す事が可能です。
まずは商社機能として、自社の営業力強化を図ってみてはいかがでしょうか。

医療機器卸業界におけるM&Aスキームと最も多く活用されるスキーム

医療機器卸業界における外部環境に加え、M&Aにおける買い手側の魅力について説明をさせて頂きました。これらの買い手側の魅力を踏まえて、医療機器業界においてM&Aを実施する上で、最も活用されるスキームについて説明を致します。

医療機器卸業界として最も多く活用されるスキーム

M&Aスキームとして、吸収合併や新設合併、株式売買、事業譲渡等の様々なスキームがありますが、医療機器卸業界において最も選択されるスキームは、吸収合併となります。
前述した通り、医療機器卸業界において、M&Aを活用したエリア拡大戦略が最も多いM&A目的となります。従って、売却先ののれん及び商号を残さず、吸収合併による買収企業への取り込みが本業界では最も多く選ばれるスキームとなります。
先程説明した通り、自社の顧客基盤・自社が所属するエリアにおける位置づけが非常に重要な買い手のポイントとなり、現時点で経営上課題があった場合でも、買収企業の営業力・商品競争力を活用し、エリア拡大の見込みがあれば、買い手は積極的なアプローチを掛ける可能性があります。
先程ご紹介した、買い手にとっての魅力となるポイントを押さえ、自社の状況把握を進め、改善を図りながら、買い手への訴求をすることをお勧めいたします。

まとめ

医療機器卸業界は、国策による医療費抑制による医療機器単価の低下のあおりを受け、収益構造が他業種に比べ、低水準であるものの、国内の高齢化等を背景に、市場規模は拡大しつつあります。今後も外資系企業や国内大手企業を始め、本市場へM&A等を活用して、積極的に攻勢をかける企業が多い業界となります。
売却を検討する際には、不本意な取引とならないよう、自社の強み・特性をしっかり把握し、買い手への交渉材料を整理するようにしましょう。