食品製造業を売るときに読む記事。食品加工業・売却(M&A)のポイントはどこ?

食品製造業界におけるM&Aは広がりを見せています。加工食品を扱う中小企業も厳しい経営環境から、事業再生型のM&Aを行っているのが現状です。本記事では、食品加工業を中心に、近年のM&A動向、業界の課題、M&Aを進めやすくする生産性向上のポイントについて解説します。

食品加工業の定義

食品表示基準であるJAS法では、製造または加工されたものを加工食品と定義しています。加工食品は原料となる食品を「煮る」「焼く」などの加工をすることで、食品の本質を変えるのが目的です。反対に生鮮食品は、原料をカット・選別するだけで、加工には至りません。加工食品の例としては、果実缶・瓶詰などの果実加工品、みそ・しょうゆなどの調味料、レトルト食品・弁当・そうざいなどの調理食品が挙げられます。これらを製造・加工する事業者が食品加工業です。

食品加工業の市場分析

2018 年の国内加工食品生産額は、24.1 兆円と堅調を維持しています。その背景には、女性の社会進出の拡大や単身世帯の増加に伴い、簡便な調理済み食品へのニーズがあるものと考えられます。

中長期的に見れば、高齢化社会の進行や世帯人数の減少により、高齢者に対応した調理食品、個食タイプのラインナップの拡充が見込まれ、引き続き堅調に推移する見通しです。

食品製造業のM&Aの現況

将来的な国内市場の縮小と日本食志向の高まりから、大手企業は海外市場への進出を目的として、海外企業とのM&Aを進めています。中小企業においては、販売先からの値下げ要求や原材料費の高騰、後継者不足などの影響により、事業再生型のM&Aが盛況です。

M&Aのメリット

食品製造業におけるM&Aのメリットは次のような内容です。

売り手のメリット

  • 従業員の雇用を守ることができる
  • 事業を承継できる
  • 創業者利益を獲得できる
  • 有力なグループの傘下で、安定的・効率的な事業経営ができる
  • 借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット

  • 事業基盤の拡大によりスケールメリットを享受できる
  • 新たな販売チャネルを入手できる
  • 商品ラインナップの拡充を図れる
  • 食品加工業の課題について

    上述のように加工食品の市場は堅調ですが、加工食品業をはじめとした食品企業には課題が多くあります。

    労働生産性が他の製造業と比べて低い

    経済産業省の調査によると食品製造業の労働生産性は、全産業平均の約7割、製造業平均の約6割の水準で低迷しています。これには主に2つの原因が考えられます。

    一つに、中小企業の多くはOEMによる受託生産や消費者ニーズの多様化から、多品種少量生産という体制をとっています。この多品種少量生産のデメリットは、製造の合間の製品切り替え時に段取り替えが発生することです。基本的に段取り替えの時間は正味の製造時間には含まれず、段取り替えが多いほど生産額低下の要因となります。

    もう一つの原因は、食品製造が労働集約型の特徴を持っていることです。特に包装・箱詰めといった作業は人の手によるものが多く、検査工程も人の目に頼らざるを得ないため、多くの人員を要します。人手を要するということは、それだけ一人当たりの生産額の低下を招く結果になり、労働生産性が伸び悩みます。

    機械による自動化が遅れている

    自動化の一つの目安となる労働装備率が低いのも、食品製造業の特徴です。他の製造業では設備投資を積極的に行い自動化を推し進めていますが、食品業界の中小企業の多くは資金不足から機械化には踏み切れていません。老朽化した設備をメンテナンスしながら使い続けているために、自動化が遅れ人件費の削減にまで至っていないのも生産性が低い要因です。

    労働生産性向上の3つのポイント

    では、労働生産性を向上させるためにはどのような方法が考えられるでしょうか。ここでは3つにポイントを絞ります。

    業務効率化

    業務効率化による製造時間短縮でまず取り組むべきなのは現場のカイゼンです。カイゼンは従業員の意識やアイデアで実現できることも多く、なおかつお金をかけずにできるのが特徴であり、この点で特に中小企業には最適です。生産効率を上げるには、「ムダの排除」を実践します。ムダとは生産ラインにおける必要のない動作や作業のことです。トヨタもムダを徹底的に排除するという理念のもと、「ジャスト・イン・タイム」と言われる合理的な生産体制を生み出しました。ムダの排除をするうえで重要な考え方が、「整理」「整頓」「清潔」「清掃」「しつけ」の5Sです。例えば5Sの「整理」とは、要らない作業と要る作業、要らない動作と要る動作を区別することです。作業手順を一つ一つ解体していき、ムダが潜んでいないか観察すれば最低でも一つはあるはずです。1秒でも作業時間を短縮させるには、道具を左手から右手に持ち替える動作もムダと見なす徹底さが必要となります。

    コスト削減

    コスト削減は多くの企業が当然のように取り組んでいますが、ここで着目したいコスト削減の方法は「歩留まり向上」と「不良率改善」の2つです。

    歩留まり向上

    歩留りのほとんどは原材料の品質によって決まります。なぜなら生産ラインに投入した原材料が廃棄されるのは、検査工程において不良と判別されたケースが多いからです。そのため、仕入先の品質管理にも積極的に踏み入っていく必要があります。価格面と品質面の両方は定期的に見直し、適正でないと判断した場合には、仕入先を変えることも視野にいれます。

    不良率改善

    不良率の改善もコスト削減には有効な手段です。

    不良品を削減するためにまず初めにやるべき事は現状の見える化です。見える化には、各工程の生産数や不良数などの生産状況を数値として客観的に表すことが大切となります。他の製造業では「QC七つ道具」に代表される定量分析を活用していますが、なぜか食品製造業には浸透していません。工程が安定しているか監視する「管理図」や不良の内訳を分析する「パレート分析」は不良率改善の定石であり、食品製造の分野においても役立ちます。

    自動化

    近年、産業用ロボットの導入が進んでおり、人の手に頼らなくてもすむ工程が増えてきました。中小企業においては投資が進んでいるとは言いづらいですが、ロボットの導入は一度は考えてもいいかもしれません。特に、出荷前の箱詰めや製品をベルトコンベアやトレーに載せる段積み作業は多くの人手を要します。費用対効果はぜひ考えておきましょう。

    生産性向上がもたらすM&Aにおける利点

    会社が赤字に陥ったときの一つの対策として、損益分岐点売上高を下げるという方法があります。損益分岐点が下がれば黒字を達成しやすくなります。それを実現するには人件費である固定費を削減するか、原材料費(変動費)を削減するかです。この2つは先ほど紹介した生産性向上の手段でした。つまり、生産性向上は会社を黒字化するのに有効ということになります。
    財務状況がよくなれば、M&Aによる売却も進めやすくなります。ぜひ生産性向上に取り組んで見てください。