老人ホーム・特別養護施設の売却(M&A)するときのポイント解説

超高齢化が進み、老人ホームのニーズはますます高まってくることが予想されます。その一方で、黒字経営と赤字経営に二極化しているとも言われています。特に深刻なのは介護スタッフの人材不足と、非効率的な運営という課題です。どうすれば人材を安定的に確保した上で、効率的な運営を行えるのか、老人ホームの経営を成功させるためのポイントについて説明します。

老人ホーム経営の課題

老人ホームの経営を成功させるために、乗り越えるべき課題について説明します。

人材不足

老人ホーム業界における人材の特徴は流動性、離職率の高さです。優秀なスタッフに長期間安定的に勤務してもらうことが重要です。辞めてしまう人が多く流動性が高いと、採用コスト、教育コストが回収できません。また、コストがかかっても採用できればまだ良いのですが、次のスタッフが確保できない場合は、新規入居者受け入れのための人員基準を満たせません。介護業界は他業界に比べて有効求人倍率が高く、人手不足が慢性化している状態が続いています。

効率的な運営

人材不足を解消するためには賃金を上げれば良いわけですが、老人ホーム経営における人件費が運営コストに占める割合は高いので、人員が過剰になると人件費がかさみ、経営を圧迫してしまいます。しかし反対に、人員基準を満たせなければ空床があっても入居者を受け入れられなくなってしまいます。適正人員で運営するためには、スタッフが働きやすい運営体制、教育体制を構築し、定着率を高める必要があります。
 

入居者の重度化

入居者は運動やコミュニケーションの多寡によって、要介護レベルが上がるケースがあります。入居者が重度化しても人員配置基準は変わらないので、介護負担が増え、人件費の増加要因となります。入居者の重度化も想定した運営計画を立てておくべきです。

介護報酬の改定

介護報酬を受給する介護サービスは、介護保険制度によって定められています。介護報酬は3年ごとに改定され、マイナス改定の場合もあります。その場合は加算を取得して巻き返す必要があるわけですが、介護報酬改定の影響も見込んでおかないと経営悪化や倒産につながってしまいます。

老人ホームの収支構造

老人ホームの収支を規定する構造について説明します。

事業収支の予測

老人ホームの収入は、入居者からの家賃・サービス利用料、介護報酬、入居者からの入居一時金などです。支出は、人件費、施設維持管理費、食事・サービス関係費、広告費、事務費、固定資産税などです。事業計画を立てて、収入から支出を引いた単年度の収支を予測しておくことはもちろんですが、年度を超えたキャッシュフローがプラスかどうかを把握しておくことも重要です。

空床と稼働率

老人ホームが増え価格競争も起こっています。また、国の介護方針も、施設から在宅へという流れがあります。そのような状況下で、老人ホームの空床が埋まらないという問題が発生します。そのため、入居者を集めるための広告費も必要となってきます。空床を減らし、収入と直結する稼働率を高めなければなりません。一般的には老人ホームでは、稼働率70%程度が損益分岐点であると言われています。

加算の取得

栄養マネジメント加算、個別機能訓練加算など様々な加算を取得していくことは、もちろん直接的な収益増加に結びつきます。さらに、利用者のQOLを向上させることになるわけですから、新たな利用者に施設が選ばれる要因を作っていることになります。つまり、新規入居者の獲得にもつながる道なのです。

老人ホーム経営改善のポイント

老人ホームの経営を改善させるためのポイントについて説明します。

施設内の体制整備

まず、施設内の体制を整備することです。具体的には第一に、経営を担うスタッフが介護の知識・経験を身につけることです。現場のスタッフから、経営陣は介護のことがわかっていると認識されて、信頼を得ることにつながります。また、何か問題が発生した際に、適切な経営判断を行うことができます。第二に、適正な人材配置を行うことです。人件費とのバランスを考慮しながら、場合によってはスタッフの増員も進めていきます。

チーム力を高める

施設内のチーム力・組織力を高めることも重要です。施設内では、複数の専門職員が勤務しています。その全員がチームとしての目標を共有しており、それぞれの能力を発揮し合い、情報を提供して、一体となって運営を進めていくことが経営改善の推進力となります。

他施設との連携

どのような老人ホームであっても、どこかの地域に位置しているわけです。当然、その地域を担当しているケアマネジャー、居宅介護サービス事業所、医療機関が存在します。それら他の施設との連携が不可欠です。老人ホームを認知してもらえるように働きかけ、入居者を募集していることを伝えておきましょう。

老人ホームの差別化対策

入居者を増やすためには他の施設にはない、売りポイントを持つことが必要です。老人ホームの種類別に差別化対策を説明します。

有料老人ホーム

有料老人ホームの差別化対策は、第一に食事です。やはり老人ホームの厨房で作っている所、調理済みのものを搬入する所、レトルトを温める所では提供される食事の質が異なります。治療食や介護職の扱いもホームによって異なります。さらに、好みに対応してくれるかどうか、メニューを選べるかどうかなどというポイントもあります。第二に、レクリエーションです。こちらは老人ホームの方針だけではなく、スタッフの資質によっても大きく変わってきます。バリエーションを持たせるように工夫している所もあればそうでない所もあります。

特別養護老人ホーム(特養)

病院では、状態の安定した患者の早期退院が求められていますので、特別養護老人ホームが状態の安定した要介護3以上の高齢者を積極的に受け入れる体制を整えれば、病院からの退院先として認識され、大きな差別化となります。そのためにも、病院との日頃からの連携は不可欠です。

介護老人保健施設(老健)

通所利用率の改善につなげるために、入所時のリハビリだけでなく、退所後に在宅で安心して過ごせるような通所サービスを充実させていくことが考えられます。そのためのリハビリ計画を、医師とリハビリ職の連携の下で整えて行きます。また、地域社会の中での施設の意義を高めていく方法として、地域貢献活動を積極的に行っていくことも考えられます。地域の人を対象にした高齢者サロン、介護予防サロン活動などです。

まとめ

老人ホームの経営を成功させるためのポイントは、第一に、人材不足、効率的な運営、入居者の重度化、介護報酬の改定などの老人ホーム経営の課題を乗り越えることです。第二に、事業収支の予測を行い、空床を減らして稼働率を高め、加算を取得して、老人ホームの収支構造を安定させることです。第三に、施設内の体制を整備し、スタッフのチーム力を高め、他施設と連携して、経営改善のポイントを押さえることです。以上の点を踏まえながら、第四に、差別化対策を行っていきます。有料老人ホームの差別化対策は、食事とレクリエーションです。特別養護老人ホーム(特養)の差別化対策は、状態の安定した要介護3以上の高齢者を積極的に受け入れる体制を整えることです。介護老人保健施設(老健)の差別化対策は、通所サービスの充実と地域貢献活動です。老人ホームの需要はこれからも増加していきますので、以上のポイントを押さえて、経営成功を導きましょう。